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2030年の台湾有事の認知戦シミュレーション(第5回)



 

■ 二〇三〇年の東アジア情勢


 ウクライナ戦争は開始してから3年後に一応の停戦状態を迎えましたが、2030年現在、依然として散発的な衝突が続いています。国連は存続していますが、北朝鮮の核ミサイル問題などでは、中露が拒否権を行使するなどの問題があり、機能不全に陥っています。多くの国々は、両陣営の動向を見守りつつ、自国の国益のみを追求する傾向が強まっています。

 

 2028年の大統領選挙でプーチンが引退したものの、新たな愛国主義的な大統領の下でロシアの権威主義体制には変化が見られません。ウクライナ戦争による経済的な疲弊は続いていますが、中国からの援助によってロシア経済は持ちこたえています。これに関して「中国の属国化」と揶揄される声もありますが、いずれにせよ、ロシアと北朝鮮は影響力を保持し続け、対米牽制を中国と連携して行っています。

 

 ウクライナ戦争で疲弊しなかった中国は、欧州経済の救世主として「一帯一路」を推進し、約10億の海外市場を獲得しました。これらの顧客データはAIのビッグデータとして活用されています。このような状況から、中国は2017年7月に掲げた「2030年までにAIで世界をリードする」という目標をほぼ達成しています。

 

 2027年年に習近平の第四次政権が始まりました。習は2035年までに経済規模で世界第一位を達成することを目指していますが、「台湾への軍事侵攻は得策ではない」と考えています。ただし、台湾の独立阻止のための武力統一の選択肢は放棄していません。

 

 

■習近平が中台戦争を決意


 2021年の春、米軍高官が2027年頃に中国が台湾に侵攻する可能性が高まると言及しました。しかし、2024年の台湾総統選挙では民進党候補が総統に付きましたが、国民党が立法院会での議席を伸ばしました。その結果、二〇二二年の米下院議長の訪台や蔡英文総統の訪米などのような、中国を刺激する動きはなかったため、中台関係は比較的安定していました。

 中国はウクライナ戦争の教訓から、十分な戦争準備を行い、米軍が本格的な介入を行う前に速戦即決を追求していました。つまり、兵員の犠牲を最小限に抑えることが重要であるとの教訓を得ました。また、米国の関与については、核保有国である中国との戦争に関与するリスクを回避する可能性があるものの、その保証はないと判断されました。

 

 これらの教訓に基づき、中国は軍事作戦開始前に台湾社会を不安定化させることや、在日米軍の戦力発揮を妨害することが極めて重要であると認識し、サイバー・情報戦および認知戦、AI戦争の能力を高めることに力を入れました。

 

 習近平の政権基盤は安定していましたが、経済成長率は停滞し、少子高齢化が進行し、最近では2035年に経済規模で米国を追い抜くという経済目標は遠のいていました。

 

 2028年に行われた台湾総統選挙では、再び民進党候補が総統に選出されました。台湾は以前の蔡英文政権以上に米国や日本との連携を強め、半導体の対中輸出規制などを行うようになりました。

 

 中国国内では経済停滞や民衆化デモが生じ、一部で習近平の退陣要求が高まり、国営メディアや軍機関紙である『解放軍報』などでは台湾に断固たる対応をとるべきだとの主張が強まっています。

 

 2030年、習近平は七六歳の誕生日を迎えましたが、82歳で死ぬまで国家指導者であった毛沢東に倣い、2032年の党大会で後継者へのポスト譲渡を示唆する姿勢は見せていません。

 

 しかしながら、経済での米国超えが困難である状況下で、国民の不満が高まっており、小規模な「倒習」運動が勃発しています。習近平は国民に対し、中国こそが世界のリーダーであり、中国共産党が中国の歴史上最高の指導者であることを自国民および世界に向けて強調しています。

 

 米国の情報によれば、習近平は側近の二人の軍事委員会副主席に台湾軍事作戦の検討を命じたとされます。彼らは以下のように総括したとの情報が日本側に伝えられました。

 

 「台湾海峡を越えて全面的な台湾上陸侵攻を行う軍事力は十分ではありませんが、潜水艦、ミサイル、爆撃機を利用して米軍の来援を阻止し、電撃戦によって政治中枢の台北市を占領することは可能です。本格的な智能化戦争を行う体制は整っていませんが、自律型兵器の導入により、台湾および日米の防衛行動を混乱させることができます。いずれにせよ、ウクライナ戦争以降重視してきたサイバー・情報戦および認知戦によって、台湾および日米の戦闘意志を事前に喪失させ、電撃戦を追求することが重要です。」

 

(次回に続く)

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