top of page

Tiktokリスクから小紅書リスクへの移行


 

Tiktokリスクから小紅書リスクへの移行とは?

Tiktokの米国サービス停止リスクを背景として、多くのユーザーが「Tiktok難民」として小紅書(RED)へ移行する動きがある。そもそも、Tiktokにおけるリスクとは何であったのか、そして小紅書にはそれ以上の危険性が潜んでいないのか。これらの疑問の背後には、中国企業による情報活用の脅威があると考えられる。本稿では、Tiktokの危険性に加え、そこから派生する小紅書リスク、さらに中国の情報関連法がもたらすインパクトについて概説する。


Tiktokの危険性

1. 情報収集

 2022年にForbesが報じた「Tiktok運営企業バイトダンスによる位置情報を使った民間人調査疑惑」は、Tiktokの情報収集リスクを世界に示す大きな契機となった。これを機にTiktokユーザーのデータが不正に吸い上げられているのではないか、という懸念が高まったのである。

 さらに、バイトダンスは米国内ユーザーのデータを中国に送信していないと主張する一方で、米司法省は中国国内のサーバーにデータが保管されている証拠があるとして反論している。

2. 情報操作

 プラットフォーム事業者は、特定の情報を優先的に拡散し、不都合な情報を抑制する技術的な手段を持っている。国家や特定の勢力がTiktokを用いて世論誘導を図る場合、利用者は気づかないうちにイデオロギーや政治的主張を刷り込まれるリスクがある。もっとも、グローバル版Tiktokのアルゴリズムは米Oracle社による監査を受けているため、一定のコントロールが働いていると考えられる。一方で、後述する「5.検閲」のように、都合の悪い情報をシャットアウトする能力を有していることは懸念すべき内容だ。

3. バイラル効果を利用した偽情報の拡散

 動画プラットフォームであるTiktokは瞬時に大量拡散が可能であるがゆえに、誤情報や捏造情報がファクトチェック前に多くの利用者へ広がる危険を孕んでいる。結果として、社会的混乱や対立を深める「分断工作」に利用される可能性がある。

4. 国家間の情報戦への活用リスク

 膨大な利用者数を持つTiktokは、国際競争の中で「影響力行使の場」として魅力的である。複数の公式アカウントや工作アカウントを駆使し、特定の国家観や政策を支持する動画を大量拡散することで、対立国における世論を揺さぶる戦術が想定される。

5. 検閲

 過去に、バイトダンスが、中国政府にとって不都合とされるトピック(天安門事件・チベット独立問題・法輪功など)を抑制・削除する内部ガイドラインを持っていたと報じられている。


 以上のように、日本の国家安全保障戦略上脅威とされる国が、このような大規模プラットフォームを所有していることは懸念事項である。



小紅書(RED)の危険性

 インド政府は2020年以降、国家安全保障上の懸念を理由に段階的に多数の中国系アプリを利用禁止としてきた。「118の中国系アプリ禁止リスト」(2020年9月2日公表)には小紅書も含まれていたと伝えられている。インド政府はこれらのアプリが「主権や安全保障を侵害し得る」と公式に懸念を示した。

 小紅書については、Tiktokのように大きく報道された「具体的危機事例」は乏しい。しかし、Tiktokと同種の情報収集・プロパガンダ活用のリスクを内包していると推察されるうえ、中国国内に基盤を持つという点では、むしろTiktok以上にデータ管理や検閲のリスクが高い可能性がある。Tiktokの場合、データセンターは米国内などに所在するが、米司法省は中国側のサーバーへの送信証拠を示して反論している。一方、小紅書のデータセンターは中国国内にあると指摘されており、より一層のリスクが懸念される。


中国の情報活用の危険性(データプライバシーの観点)

 中国では法律を通じて、当局が企業からデータを得やすい仕組みを整えている。Tiktokや小紅書といった中国系プラットフォームはもとより、中国国内に本社機能を持つ企業は「中国国家情報法」や「サイバーセキュリティ法」などの法令に従い、当局からの要請があればデータを提供する義務が生じる。以下、主要法を例示する。

1. 中華人民共和国サイバーセキュリティ法

 公安機関や国家安全機関からの要請に協力する義務を企業に課している。また、重要インフラ事業者に関しては「データローカリゼーション」を義務づけ、中国国内にデータを保存することを求めている。小紅書が重要インフラ事業者に該当するかは公的に明示されていないが、当局が法的要請をかける可能性は否定できない。

2. 中華人民共和国データセキュリティ法

 中国国内で扱われるデータを重要度によって分類し、保護する一方で、中国当局の監督下に置くことを前提としている。海外へのデータ移転・共有には原則的に政府当局の審査・許可が必要とされ、中国企業が当局の意向から自由にデータを管理しにくい構造となっている。


法関連のまとめ

 小紅書を含む中国系SNS・アプリ事業者は、国家情報法・サイバーセキュリティ法・データ安全法・個人情報保護法など複数の法律の適用を受ける。これらには以下のような特徴がある。

・国家機関への協力義務

 国家情報法やサイバーセキュリティ法では、要請を受けた企業は情報を提供する義務を負い得る。

・データローカリゼーションと越境データ移転の制限

 サイバーセキュリティ法(第37条)やデータセキュリティ法・個人情報保護法により、中国国内にあるデータの国外移転が厳しく管理される。結果として、海外ユーザーの情報であっても中国国内に保存される場合、中国政府の管轄下に置かれる可能性がある。

・監督・検閲リスク

 企業のコンテンツ管理やデータ管理が当局の監督下にあり、プラットフォーム運営方針は当局の規定や要請に大きく左右されるとみられる。



<参考事例――Zhenhua Dataによる海外要人のデータ蓄積>

 2020年9月、ABCNewsは中国のビッグデータ企業「Zhenhua Data(振華数据)」が海外要人や専門家に関する膨大なデータを収集・蓄積していると報道した。SNSのプロフィールや投稿、家族や同僚のリスト、職歴や人脈情報などを統合管理し、アルゴリズムを用いてターゲットの弱点や趣向を分析している疑いがある。この手法は「身辺調査のデジタル化・大規模化」とも言われ、諜報活動における個人リクルートや弱みを握る目的で活用されるリスクが指摘されている。本件は、中国がSNSを含む膨大なデータを諜報活動に活用しうることの一例として注目された。




 

まとめ

・Tiktokはユーザーデータの収集を巡る懸念、さらには中国への情報送信やプロパガンダ手法に利用されるリスクが依然として残る(アルゴリズムは米Oracle社の監査下にあるが、それでも脅威は消えていない)

・小紅書は、Tiktokで指摘されたリスク(情報収集・情報操作・プロパガンダ)を踏まえれば、より深刻な懸念を孕む可能性が高い。

・これらの背景には、中国が整備したデータ3法(国家情報法・サイバーセキュリティ法・データ安全法)などによるデータアクセス義務が存在し、企業が当局からの要請に抗えない構造がある。


 中国以外にも、アメリカを含む諸外国が情報収集を行っていることは事実である。しかし、民主主義国家では成し得ない強引な手法を中国がとる可能性が高く、安全保障の観点から「中国の脅威」が論じられる一因となっているのだ。

bottom of page