ロシアや中国の「スパイ」は、どんな情報を狙っているのか。元警視庁公安部捜査官/日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠さんは「スパイ活動の対象になるのは最先端の技術とは限らない。活動を仕掛ける側の国にとっては、一世代前の技術が思わぬ価値を持つ場合もある」という――。(前編/全2回)
事件化されたものは氷山の一角
2020年1月、警視庁公安部は、ソフトバンク元社員で統括部長だった男を不正競争防止法違反で逮捕した(朝日新聞デジタル 2020年1月25日)。同社員は、勤務していたソフトバンクの社内サーバーに不正にアクセスし、同社の電話基地局設置に関する作業手順書等、営業秘密にあたる複数の情報などを取得。記録媒体にコピーした上で、在日ロシア通商代表部のアントン・カリニン元代表代理に手渡した。カリニンはロシア対外情報庁(SVR)の、科学技術に関する情報収集を担うチーム「ラインX」の一員であった。
また、2021年6月には、在日ロシア通商代表部の職員に渡す意図を隠して不正に文献を入手したとして、神奈川県警が同県座間市の日本人男性を電子計算機使用詐欺容疑で逮捕した(朝日新聞デジタル 2021年6月10日)。日本人男性は「約30年にわたって複数のロシア人に軍事、科学技術関係の資料を渡し、対価として1000万円以上を受け取った」と供述しており、長期にわたってスパイに“運営”されていたことがわかっている。
過去にもロシア外交官を主とするわが国内における諜報活動は幾度か検挙されているが、何もロシアだけではなく、中国、北朝鮮も含め、現在の経済安全保障における日米側と相いれない陣営側により、過去から現在まで日本でスパイ事件が検挙されているのは周知の事実だろう。
これは、私の民間における不正調査の経験も含め語れることであるが、上記のように事件化されているものは、ほんの氷山の一角であると断言できる。
スパイ行為自体を取り締まる法的根拠がない
わが国にはスパイ防止法がなく、スパイ行為自体を取り締まる法的根拠がない。捜査機関としては、法定刑がさほど重くない窃盗や不正競争防止法等の犯罪の適用を駆使し、さらに構成要件を満たして容疑が固まった上で検挙しなければ広報ができない。特に、外交官相手では任意捜査にも応じてくれず、「怪しかったが違いました」では済まされないといった事情もある。そもそも、スパイ事案の特性上、任意捜査をしていたのでは容易に証拠隠滅されてしまう。
私が民間で経験した事案にこういったものがあった。A社から「防衛関係の船舶の図面が転職先に持ち出された可能性があるので調べてほしい」と言われ、対象者の調査を開始した。もちろん、対象者への貸与品(PCやスマートフォン、メールサーバーなど)はデジタル・フォレンジックという技術で内容を復元・解析した上、さらに対象者の行動について外部ベンダーを利用して交友関係、特に転職先に持ち出した事実等を調査した。
ところが・・・・
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