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執筆者の写真上田 篤盛

認知戦とは何?(第1回)


 

            

認知戦という言葉をよく耳にする最近

 2022年2月のウクライナ戦争が始まる以前から、「認知戦(Cognitive Warfare)」という言葉をよく耳にするようになりました。わが国のインターネット上の論文や一般書籍でも認知戦を冠するものが多く確認されるようになりました。筆者が参加する安全保障やサイバーセキュリティのセミナーでは「認知戦」という用語にしばしば接します。

 

 実は、認知戦についての世界の共通定義は未だになされておらず、欧米もその研究を開始したばかりです。ただし、認知戦を「偽情報により相手の認知(認識)を誤った方向に導き、判断を誤らせる戦い」、あるいは「ソーシャルメディアによる情報操作や偽情報など」といったニュアンスで認識されているようです。



ウクライナ戦争では認知戦が繰り広げられている

 ウクライナ戦争では、ロシア、ウクライナ、そして欧米がマスメディア、ソーシャルメディアを使って真偽不明な画像やナラティブ(物語)を拡散し、国際世論を味方につける、あるいは相手側の社会を分断する試みを行なっています。すなわち、認知戦の様相を呈しているのです。

 

 認知とは「何かを認識・理解する心の働き」であり、認知戦の本質は相手の心に影響を与え、支配することです。この点は伝統的な「心戦」あるいは「心理戦」と一寸の違いもありません。この点に関して、中国の軍事専門家は「認知空間における競争と対抗は数千年の戦争史を通じて一貫して存在しており、古代の中国では『攻心術』や『心戦』と称されていた」と指摘しています。しかし、認知戦は、発達したICT環境の中に誕生した新たな戦いでもあります。つまり〝古くて新しい戦いなのです。


 

心理戦から認知戦に至る経緯

 心理戦(心戦)は、わが国においても古代から兵法の一つとして用いられてきました。第二次世界大戦時には、欧米の専門家が「Psychological warfare」および「Psychological Operations」の概念を提起し、わが国ではそれを心理戦争、心理戦、心理作戦などと訳しました。冷戦期には、心理戦は核抑止戦略の一環を形成し、政治的用語としての色彩を強く帯びるようになりました。

 

 湾岸戦争において米国は、C4ISRを駆使した戦いを展開し、世界を驚愕させました。その戦争から情報の重要性が認識され、「Information Warfare(情報戦)」や「Information Operation(情報作戦)」などの言葉の定義づけや研究が世界的に行なわれました。中国やロシア、あるいは国際テロ組織は〝弱者の戦法〟として情報(作)戦に取り組み、その中でも電子戦、サイバー戦能力の強化に努めました。


 21世紀に入り、時代はパソコンからスマホへと移り、情報発信のツールとしてソーシャルメディアが登場した。2010年初頭の「アラブの春」ではソーシャルメディアによる民主化デモへの参加が呼びかけられました。

 

 そして、現行のウクライナ戦争ではマスメディアがテレビ、新聞、インターネット記事で戦況を刻々と報じています。同時に、戦場にいる誰かがスマホで動画を撮影し、それをソーシャルメディアで拡散させ、世界の多くの人々の心理・認知に影響を及ぼしています。すなわち国際社会全体が認知戦の影響を受けているのです。

 

 さらに、認知戦の先には、AIが人間の心理・認知を操作する、あるいは人間の心理・認知をも超えてAIが自律的な意思決定を行ない、自律型無人機が戦場を飛びかうAI戦争が見え隠れしています。


 私たちはこうした世界に生きています。現在、世界や我が国周辺で起こっている認知戦についてもっと知る必要があると思います。(次回に続く)


 認知戦を理解するための著書(12月12日発刊)


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