経済安全保障における技術流出対策とは -経済安全保障ガバナンス-(第6回)
- 稲村 悠
- 15 時間前
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経済安全保障ガバナンス
企業の技術流出対策の強化は、もはや特定の防衛関連企業に限られた課題ではない。
AI、半導体、量子技術、バイオなどの先端技術や、個人・産業データを扱う企業にとっても不可欠な経営課題である。グローバルな競争や地政学リスクの高まりに伴い、技術流出は企業の存続を左右するだけでなく、国家安全保障や外交関係にも深刻な影響を及ぼす。すなわち、技術を守ることは企業の生存戦略であると同時に、日本全体の経済安全保障基盤を強固にする行為でもある。

このような情勢下においては、経営層主導のもと、経済安全保障室などの専門組織を社内に設置し、司令塔として脅威評価、技術棚卸、アクセスログや海外拠点の挙動といったリスク情報を一元的に収集・分析・統合する体制の構築が不可欠である。こうした情報集約型の体制は、単なるマニュアル整備やシステム導入にとどまらず、組織のカウンター・インテリジェンス能力を高め、企業全体での優先度の高い対策の実施を可能とする。
さらに、サプライチェーン全体に目を向けた安全保障対応も重要である。協力企業や海外子会社における情報管理ルールの明確化、セキュリティクリアランス制度の導入、アクセス権限の最小化といった内部統制の強化に加え、第三者監査や継続的な内部監査を組み合わせることで、社内では見えにくいリスクの洗い出しが可能となる。また、統合的リスク管理ツールの活用により、脆弱性の自動検知やアラート機能を通じて、経済安全保障室が担う情報分析の精度をさらに高めることができる。
待ちの姿勢を脱却せよ
加えて、企業は“待ち”の姿勢を改め、自社が把握したリスク情報を官民連携の枠組みの中で能動的に共有し、国の助言を得ながら防御態勢を最適化する姿勢が求められている。国際情勢やサイバー攻撃手法が常に変化し続ける以上、対策を一度講じて終わりにするのではなく、経済安全保障室を中核に据えた「カウンター・インテリジェンス・サイクル」を継続的に回し、動的に防御体制を更新していく必要がある。
このような包括的かつ実効性のあるガバナンス体制こそが、企業の技術流出リスクを最小限に抑え、技術優位性を保ちつつ世界に挑むための基盤となるのである。
筆者は、日本企業にそれが出来ると信じてやまない。
おわり