自由・民主主義的な価値観の普及は奏功せず
西側の自由・民主主義国家は、権威主義国家に対して、人間が本来持つ自由と民主主義への憧れをツールとして、影響力を行使し、社会の民主化を促してきました。これに対して、中露などの権威主義国家は、国内でのメディア報道などを制限・統制し、国内での民主化運動を取り締まるなどの対抗策を講じてきました。
現在はイータネット時代に入り、フェイスブックや他のソーシャルメディアが発展し、権威主義体制下の人々を自由・民主主義のイデオロギーへと誘導する動きが生じています。しかし、中国、ロシア、北朝鮮などの国々は、インターネットやスマートフォンの自由な使用を制限し、逆にスマートフォンなどを用いた住民監視や思想統制などを行なっているとされています。
こうした状況下で、西側が目指す報道・言論の自由や人権の尊重などの価値観が、権威主義国家ではなかなか成果を上げていないのが現実です。
権威主義国家は平時から認知戦を展開する
一方、自由・民主主義の米国では、報道や言論の自由が保障されているため、ベトナム戦争の報道統制に失敗しました。一方で、9・11同時多発テロ事件後には国家機関が大量の個人情報を水面下で収集するといった事例が発生し、これらが暴露された事件(「スノーデン事件」など)も生じています。
言い換えれば、権威主義国家のような徹底した報道・言論統制は米国では困難であると言えます。マスメディアやソーシャルメディアなどは原則、自由な活動が保障され、それが反政府的な行動を引き起こすこともあります。
権威主義国家は、ここに西側社会の脆弱性があると捉え、真実と虚偽を織り交ぜた情報を発信し、社会の不安定化や特定の対象に対する影響力を行使しています。つまり、平時と戦時の境目がない状況で認知戦を展開しているのです。
偽情報も繰り返せば真実になる
ウクライナ戦争では、欧米が情報発信として、ロシアによる偽情報に対抗する様子が見られますが、これは報道の自由が保障されている欧米社会に限定されています。また、真実と嘘が混在した大量のナラティブは、偽情報としての立証が困難であり、偽情報対策の手段であるファクト・チェックにも限界が生じています。
生成AIが進化し、今以上にもっともらしい儀情報や偽画像が簡単に大量に作成できるようになれば、ファクト・チェックはさらに難しくなるでしょう。
日本を含む自由・民主主義国家は、サイバー空間上で社会不安の種となる偽情報が流通し、拡散している状況に効果的に対処できていません。同時に、権威主義的な国家は、自由・民主主義国家に対し、偽情報の発信やサイバー攻撃などを通じて不安定化と影響力の行使を行っている可能性があります。
単なるうわさ話も時間が経つにつれて内容が拡大し、拡散されて疑惑となり、そして、いつしか噂話は真実と受け入れられることがあります。ナチスのヨーゼフ・ゲッベルスが言ったとされる「嘘も百回言えば真実となる」文言は(ヒトラー説など諸説あり)、〝真っ赤な嘘〟であっても繰り返し言い続けることにより、誰もがそれを真実だと感じるようになるという危険性があることを示唆しています。
次回は、2030年の台湾有事における認知戦シナリオについて数回にわけて解説します。
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